はじめに:100%AIによる会話は「次の章」になり得る
電話は急速に進化しています。コールボットの次に到来しつつあるのが、**「100%AIによる会話」**の時代です。
最近、テック業界である動画が話題になりました。2つのAI音声エージェントが電話越しに会話をし、相手が人間ではないと気づいた瞬間、**人間には理解できない“機械最適化の音”**に切り替える——。この出来事は「AI↔AI通話」という新時代の到来を象徴しているのかもしれません。
かつて電話は人間だけのものでした。しかし音声AIの登場により、その前提はすでに変わり始めています。そして近い将来、電話は完全に自動化され、機械同士がやり取りするものになる可能性があります。
本記事では、その未来が
技術的に何を変え、
法的に何を意味し、
実務として何が課題になるのか、
そしてStepAI/Recoのようなプラットフォームがどう備えるべきかを整理します。
電話の進化:IVR → コールボット → LLM音声エージェント
何十年もの間、電話は単純なモデルでした。誰かが電話をかけ、誰かが出る。それだけです。
しかし企業がIVR(自動音声応答)を導入し始めたことで状況は変わりました。「1を押してください…」という音声メニューは、顧客体験の最初の大きな転換点でした。
その後、音声解析能力を高めたコールボットが登場し、さらにLLM(大規模言語モデル)の進展により、AI音声エージェントは文脈を理解しながら会話できるようになりました。
象徴的な転機として語られるのが**Google Duplex(2018)**です。予約などのタスクを電話で実行するデモは大きな反響を呼び、同時に「透明性」や「倫理」の議論も加速しました。
そして今、新たな章が始まろうとしています。
それが **「人間が一切関与しない、AI同士の通話」**です。
AI↔AI通話:効率性の裏にある“新しい複雑性”
AI同士が会話するのは、次の論理的ステップに見えるかもしれません。AIが人間と話せるなら、AI同士で話した方が効率的ではないか。
ただし、その単純さの裏には、はるかに深い複雑性が潜んでいます。
AI↔AI通話は、もはや「人間を補助するツール」ではなく、自律的な会話システムです。人間の監視がない状態で機械同士がやり取りすると、例えば次のような事故が起こり得ます。
誤解や解釈違いが、そのまま確定処理に進む
無限ループ(同じ確認を繰り返す)
不要な予約や発注の確定
“分からない”を認めず、何らかの結論を出そうとする
だからこそ必要になるのが、ルール・フォールバック・監視です。
人間向けUXを作るのではなく、機械同士の対話レイヤーを設計する必要があります。
そもそもAI同士は「人間の言葉」で話す必要があるのか?
ここで根本的な問いが生まれます。
AI同士は、本当に人間の言葉で話す必要があるのか?
音声は人間のために作られたメディアです。曖昧で遅く、帯域も限られます。機械にとっては非効率です。もし相手もAIなら、情報は文章ではなく、構造化データや符号化音で運んだ方が合理的になります。
この発想を象徴する例として広まったのが GibberLink(GibberLink mode) です。AI同士が互いにAIだと認識すると、人間には理解不能な“音のプロトコル”に切り替えるデモとして注目されました。
GibberLinkが示したもの:速さと引き換えに失う「可視性」
GibberLinkは、ハッカソン由来のプロジェクトとして紹介され、**GGWave(音でデータを運ぶ方式)**を用いた“機械最適化コミュニケーション”の例として語られています。
メディアやコミュニティでは「会話が最大80%速くなる」といった効率面が強調されました。
しかし、ここで重要な問題が生じます。
人間が聞き取れない会話を、どう監視するのか?
AI同士が意図しない行動を取っていないことを、どう保証するのか?
AI↔AI通話では、次のような仕組みが不可欠になります。
全イベントのログ化(入力・決定・出力の追跡)
異常検知(ループ、矛盾、逸脱行動)
リアルタイムの強制中断(安全装置)
人間向けの要約・監査レポート(透明性の担保)
効率化が進むほど、“見えなくなる”リスクが増します。
だからこそ、プロトコルの最適化と同時に、監視と説明可能性の設計が必要になります。
法的な論点:誰が責任を負うのか?
AIが誤って支払いや解約、契約的な意思決定を行った場合、誰が責任を負うのか。
通話した企業か
エージェントを作った会社か
プラットフォーム提供者か
応答側のAIを利用していたユーザー側か
この「責任の再定義」は、自動運転が突きつけた構造と似ています。
AI↔AI通話を現実の業務に入れるなら、最低でも次が必要になります。
ルール(何をしてよい/してはいけない)
トレーサビリティ(誰が、何を根拠に決めたか)
エスカレーション(曖昧な場合は人間に戻す)
短期的なユースケース:今後12〜24か月で起きること
AI↔AI通話は、もはやSFではありません。特に人手が多く、標準化しやすい領域から現実的なユースケースが出てきます。
予約の自動調整:個人用AIが受付AIに電話し、空き確認〜確定までを短時間で完了
物流企業間の調整:倉庫AIと配送AIが納品時間や受領確認を自動連携
配送前の住所確認:EC物流AIが店舗側AIに住所・連絡先を確認し、配達失敗を低減
システム間の技術サポート:異常検知→サポートAI同士が初期対応を開始
なぜStepAI/Recoがこの未来に適しているのか
AI↔AI通話が現実になるほど、必要なのは「賢い会話」だけではありません。
安全に・監視可能に・運用できることが要件になります。
StepAI/Recoの設計思想として重要になるのは、例えば以下です。
音声エージェントの高度なカスタマイズ(業務ごとのルール・例外処理)
APIファースト設計(CRMや予約台帳など業務システムとリアルタイム連携)
通話の監視・制御(ログ、異常検知、強制中断、監査レポート)
AI↔AI通話の時代は、
「会話の自然さ」よりも “運用できる透明性” が競争力になります。
その先の未来:一人ひとりに音声エージェントを
将来、すべての人が自分専用の音声AIを持つ世界も想像できます。
歯医者の予約、請求交渉、配達の確認——すべてをAIが代行し、結果だけを報告してくれる。
これは単なる効率化ではなく、電話が苦手な人への支援にもなり得ます。
一方で、「誰の声で、どこまで代行してよいのか」という新たな問いも生まれます。
確かなことは一つ。
音声は依然として最も強力なインターフェースの一つであり、AIはそれを根本から変えようとしているということです。
私たちは、自分の声をAIに委ねる準備ができているのでしょうか。
少なくとも、この革命はすでに始まっています。



