「AIで電話や問い合わせを自動化したい」と思ったとき、最初にやるべきは“全部置き換える”ではなく、置き換える領域と置き換えない領域を線引きすることです。
この切り分けを間違えると、現場が疲弊します。顧客は怒り、オペレーターは後始末が増え、AI導入がコスト削減どころか負債になります。
この記事では、受付/確認/督促/予約/一次対応などの典型業務を例に、AIに任せるべき領域・任せない領域を、実務の判断軸で整理します。
まず結論:AI向きは「定型×分岐×ログ化」
業務をAIに任せるかどうかは、根性論ではなく構造で決まります。AI向きなのは次の3条件を満たす領域です。
定型:聞く項目が決まっている(名前、日程、番号、希望、要件など)
分岐:Yes/Noや選択肢で次の質問が決まる(予約できる/できない、本人確認OK/NGなど)
ログ化:会話結果がデータとして残り、そのまま業務に使える(CRM/スプレッドシート/チケット化)
逆にAIが苦手なのは、以下が強い業務です。
高い判断責任(例:返金可否、法的判断、例外処理の裁量)
感情の鎮火が主目的(炎上クレーム、謝罪折衝)
一件ごとに事情が違う(非定型、交渉、複雑な利害調整)
切り分けの判断軸:6つのチェックリスト
同じ「一次対応」でも、AI向き/不向きが混ざります。以下で判定するとブレません。
目的が「情報収集」か「意思決定」か
情報収集:AI向き
意思決定:人間向き
例外率(イレギュラー頻度)が高いか
例外が少ない:AI向き
例外だらけ:人間向き(まず業務整理が先)
コンプラ/本人確認の厳格さ
ルールで運用できる:AI向き
判断が必要・事故が致命的:人間 or AI+厳格なガード
顧客の感情温度
低温(予約/確認/受付):AI向き
高温(怒り/不満):人間向き(AIは“振り分け役”が最適)
失敗時のコスト(損害の大きさ)
ミスっても再確認できる:AI向き
ミスが即損害:人間向き or 二重チェック
成果が数値化できるか
KPIが明確:AI導入の価値が出る
KPIが曖昧:導入しても評価できない
領域別:AIで置き換えるべき業務(向いている)
ここからは、代表領域ごとに「AIに任せると勝ちやすい形」を具体化します。
1) 受付(問い合わせ一次受け)
AIに任せるべき理由:
「要件の分類」「必要情報の回収」「担当部署への振り分け」が定型化しやすい。
AIがやること(強い)
用件分類(例:請求/予約/解約/操作/クレーム)
必要情報の回収(氏名、会社名、会員ID、折り返し希望、緊急度)
次アクション提示(FAQ案内/折り返し予約/チケット起票)
設計のコツ
受付のゴールを「解決」ではなく “正しく仕分けて情報を揃える” に置く
例外対応は「人に繋ぐ」ではなく “人が判断できる状態に整える”
2) 確認(事実確認・照合・リマインド)
AIに任せるべき理由:
会話が短く、確認項目が決まっていて、ログ価値が高い。
例
予約前日のリマインド、来店可否確認
書類到着確認、本人在宅確認、連絡先確認
見積送付後の受領確認、「見ましたか?」の確認
設計のコツ
目的は「会話」ではなく “状態更新”(予約確定/変更/キャンセル、受領済み等)
「変更したい」場合の分岐だけ用意すると、運用が一気に楽になる
3) 督促(支払い・提出・対応の催促)
AIに任せるべき理由:
“言うこと”は定型で、回数とタイミングが成果を左右する。人がやると精神的コストが高い。
AIが強い型
期限通知 → 期日確認 → 支払い方法案内 → 支払い予定日の回収
分割/猶予などの「条件提示」までは、ルール化できる範囲で
注意点
感情が上がりやすい領域なので、エスカレーション条件を厳格に
例:怒り/脅し/法的話題/支払不能/苦情ワード → 即座に人へ
4) 予約(日時調整・変更・キャンセル)
AIに任せるべき理由:
最もROIが出やすい領域。顧客も“早く済ませたい”。
AIがやること
希望日回収 → 空き枠提示 → 確定 → リマインド → 変更受付
予約条件(所要時間、場所、持ち物、注意事項)の案内
設計のコツ
“候補日を聞く”より、選択式で進める(3候補提示→選ぶ)
変更/キャンセル導線を最初から入れて、無断キャンセルを減らす
5) 一次対応(FAQ、よくある問い合わせ)
AIに任せるべき理由:
「よくある質問」はAIが得意。ただし“誤案内”が致命傷になる領域は要注意。
AI向き
仕様説明、手順案内、必要書類、受付条件、営業時間、ステータス案内
本人確認なしでできる範囲のサポート
設計のコツ
回答は長文にしない(電話は特に)。1つずつ短く
迷ったら「折り返し予約」で逃げる(無理に解決しない)
置き換えない業務(人が持つべき領域)
AI導入で一番多い事故は、「置き換えちゃダメなところまで置き換える」ことです。
1) 例外処理・裁量が必要な判断
返金/補償の判断
条件変更の例外対応
社内規定から外れる判断
→ ここはAIが“判断”するのではなく、情報を揃えて提案し、人が決裁が正攻法。
2) 高温のクレーム対応・謝罪折衝
相手の感情を鎮め、関係を修復するのが目的
言い回し・トーン・間の取り方が重要
→ AIは 「初動の受け止め+担当へ繋ぐ準備」 までが現実的。
3) 交渉(単価・契約条件・解約阻止)
相手の反応を見て“落とし所”を探る領域
その場での提案変更が必要
→ AIはログ取りや事前の情報回収は得意だが、交渉の主役は人。
4) 法務・コンプラが絡む高リスク領域
個人情報・与信・医療・金融など
→ 可能でも、設計と運用(監査・ログ・権限・同意)が整うまで人中心が安全。
全部自動化より強い:AI+人の分業モデル(おすすめ)
現場で成功しやすいのは、次の役割分担です。
AI:受付・情報回収・分類・リマインド・予約・定型FAQ
人:例外判断・高温クレーム・交渉・最終決裁
AI:通話ログ要約・CRM反映・次アクション提案(人の後処理を減らす)
つまり、AIの価値は「人をゼロにする」よりも、人がやるべき仕事だけに集中できる状態を作ることにあります。
最後に:導入順番を間違えない(おすすめの優先順位)
いきなり一次対応やクレームに入るより、まずは勝ちやすいところから。
予約・変更・キャンセル(ROI最短)
確認・リマインド(会話短い/失敗しても復旧可能)
受付・振り分け(情報回収の価値が大きい)
督促(設計できれば強いがエスカ条件必須)
一次対応(FAQ)(誤案内対策を整えてから)
クレーム・交渉(“置き換え”ではなく“補助”から)



